東京高等裁判所 平成11年(行ケ)282号 判決 2000年9月26日
原告
エービーテトラパック
代表者
A
訴訟代理人弁理士
B
C
D
E
F
G
H
被告
四国化工機株式会社
代表者代表取締役
I
訴訟代理人弁護士
久田原昭夫
久世勝之
弁理士
J
被告
日本製紙株式会社
代表者代表取締役
K
訴訟代理人弁理士
L
主文
特許庁が平成10年審判第35163号及び第35204号事件について平成11年8月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「包装積層品をヒートシールする装置」とする特許第2501777号発明(昭和57年10月8日(優先権主張1981年10月8日、スウェーデン国)に出願の特願昭57-177486号(原々出願)の一部を新たな出願とするため平成4年9月30日に分割出願した特願平4-262343号(原出願)の一部を更に新たな出願としようとして平成6年7月26日に分割出願。平成8年3月13日設定登録。本件発明)の特許権者であるが、被告四国化工機株式会社は平成10年4月14日、被告日本製紙株式会社は平成10年5月12日、それぞれ本件発明の特許について無効審判請求をし、前者は平成10年審判第35163号事件として、後者は平成10年審判第35204号事件として審理され、併合の上、平成11年8月27日、特許第2501777号発明の特許を無効とするとの審決があり、その謄本は同年9月1日原告に送達された。
2 本件発明の要旨
繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ泊等の導電性材料層(4)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10,11)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(3,3)間でヒートシールする装置において、前記熱可塑性材料層(3,3)同志を互いに接触させて該一対の積層材料(10,11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ、該シールジョー(5)は、非導電性の本体(6)と該本体 (6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され、該棒(7)は、該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するとともに、前記一対の積層材料(10,11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(10,11)の最内層である前記熱可塑性材料層(3,3)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、該作用面(8)により、該熱可塑性材料層(3,3)同志が前記シール帯域で圧接され、さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。
3 審決の理由の要点
(1) 被告四国化工機株式会社の主張する無効理由
(1)-1 特許法36条違反
「突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」との記載は技術的に不明瞭であるから、特許法36条4項に規定する要件を満たしておらず、また、上記記載は発明の詳細な説明に全く記載されていないから、特許法36条3項及び4項に規定する要件を満足しない。
(1)-2 分割要件違反に基づく特許法29条1項3号違反
「溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」との記載は、原出願の明細書に記載されていないから本件出願は適法に分割されたものでなく、出願日は現実の出願日である平成6年7月26日となる。そして、上記記載を、原告が本件特許に係る東京地裁平成8年(ワ)第18246号特許侵害行為差止等請求事件において釈明したとおりの「非対称とは、シール帯域を突条の中心線を中心として観念的に2つの部分に分けた場合、このシール帯域の両部分が線対称でないことを示している。」と解釈すると、本件発明は、審判甲第3号証(平成5年10月19日公開の原出願の公開公報)の図4に記載された発明である。
(1)-3 特許法29条2項違反
本件発明は、審判甲第11~13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1)-4 分割要件違反に基づく特許法29条1項3号違反
原出願は、原出願発明が原々出願発明と実質的に同一であるから、不適法な分割であって出願日が現実の出願日である平成4年9月30日となる結果、原出願発明は、原々出願の公開公報に記載された発明であるとして拒絶された。そうすると、本件出願日が原出願の出願日以前には遡及しない以上(最高裁昭和63年(行ツ)第164号の平成2年7月20日判決「原々出願から分割出願された原出願が不適法な分割出願として拒絶され、その審決が確定している場合、原出願からの分割出願の出願日は原出願の日までは遡及するが、それ以前には遡及しない。」)、その出願日は原出願の日である平成4年9月30日であって、本件発明は、審判甲第10号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)に記載された発明である。
そして、被告四国化工機株式会社は、上記主張を立証する証拠方法として、以下の文献を提示している。
審判甲第1号証:特許第2501777号登録原簿謄本
審判甲第2号証:特許第2501777号公報
審判甲第3号証:特開平5-269854号公報
審判甲第4号証:M他編「大きな活字の三省堂国語辞典第三版」三省堂(1982-5-15)632頁「対称」
審判甲第5号証:特開平7-164523号公報
審判甲第6号証:平成7年6月28日付け拒絶理由通知書
審判甲第7号証:平成7年10月4日付け手続補正書
審判甲第8号証:東京地裁平成8年(ワ)第18246号特許侵害行為差止等請求事件の1997年1月21日付け原告準備書面二
審判甲第9号証:同1997年9月21日付け原告準備書面五添付のイ号物件目録
審判甲第10号証:特開昭58-134744号公報
審判甲第11号証:フランス特許出願公開2,027,012号公報
審判甲第12号証:特公昭55-3215号公報
審判甲第13号証:米国特許第4,145,001号明細書
審判甲第14号証の1:特願平4-262343号の平成10年9月1日付け特許異議の決定謄本
審判甲第14号証の2:同拒絶査定
審判甲第15号証:特願平4-262343号の平成11年1月20日付け手続補正書
審判甲第16号証:特願平4-262343号の平成8年8月20日付け手続補正書
(2) 被告日本製紙株式会社の主張する無効理由
(2)-1 要旨変更に基づく特許法29条1項3号違反
「突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」点については当初明細書・図面に記載されておらず、この点を加えた平成7年10月4日付けの補正は要旨変更であるから、本件出願の出願日は平成7年10月4日となり、審判甲第1号証(昭和58年8月11日公開の原々出願の公開公報)には本件発明の上位概念で表現された発明が記載されているから、本件発明は審判甲第1号証に記載された発明である。
(2)-2 特許法29条2項違反
被告四国化工機株式会社の提出した審判甲第11、12号証、参考資料5(特開昭55-113550号公報)、同6(実願昭51-68836号のマイクロフィルム)及び同7(特開昭54-72185号公報)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、被告日本製紙株式会社は、上記主張を立証する証拠方法として次の書証を提示している。
審判甲第1号証:特開昭58-134744号公報
(3) 原告の反論
(省略)
(4) 審決の判断
被告四国化工機株式会社の無効理由(1)-4について検討する。
(4)-1 本件出願の出願日について
原出願は、原出願発明と原々出願の特許請求の範囲第3項に記載された発明とが実質的に同一であるから、適法に分割されたものとは認められず、現実の出願日(平成4年9月30日)に出願したものとして扱われる結果、原出願発明は、当該出願日前に頒布された原々出願の公開公報に記載された発明であるとして平成10年9月1日に拒絶査定された。そして、平成10年12月21日に、拒絶査定不服審判が請求され(平成10年審判20210号)、平成11年1月20日付けで手続補正書が提出されたが、当該審判において、平成11年8月12日に、当該補正書を却下するとともに、審判請求は成り立たないとする審決があった。
そうすると、本件出願は、不適法な分割出願である原出願の一部を新たに分割しようとしたものであるから、本件出願の出願日は原出願が出願された平成4年9月30日より前には遡及しない。
原告は、本件特許の分割においては、本件出願に係る特許が設定登録されており、原出願が審判に継続中であるのに対し、被告四国化工機株式会社が無効理由(1)-4の主張で引用する判決における分割においては、本件出願が審決取消訴訟が東京高裁に継続中であり、原出願の拒絶査定が確定しているという点で、条件が異なるから、被告四国化工機株式会社が引用する判決の判示事項は本件には当てはまらないと主張している。しかしながら、被告四国化工機株式会社が引用した判決は、原出願が適法な分割出願でないときは、原出願からの分割出願の出願日は原出願の出願日となり、原々出願の出願日までは遡及しないという分割出願の原則を示したものであって、本件のような条件下で「本件出願の出願日は原出願が出願された平成4年9月30日より前には遡及しない」と取り扱うことを、何ら否定するものではない。しかも、特許庁の最終審である審判において、原出願が原々出願から適法に分割したものではないと審決した以上、当該原出願からの分割出願に係る本件特許についての無効審判事件において、上記審決が確定していなくても上記審決の結果を踏まえて本件特許出願の出願日について判断するのは当然のことである。
また、原告は、本件出願は、別個独立の出願であって、原出願が拒絶査定となったとしても遡って効力が否定されるべきものではないと主張しているが、本件出願は原出願とは別個独立の出願ではあるものの、原出願が不適法な分割出願であるとの審決が、本件出願の出願日に影響するものであることは当然のことである。
(4)-2 本件発明における「突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」の解釈について
上記記載における「シール帯域(12,14)」が「シール帯域(13,14)」の誤記であることは、全当事者に争いがない。
本件明細書の図4には、第2実施例として、突条9の縦方向の縁の一方が作用面8の加熱領域の一方の縁と概ね合致する(【0012】欄、特許公報第6欄42~43行参照)ように突条が設けられているシールジョー、換言すると、突条が加熱領域の一方の端に寄って設けられたシールジョーが記載されている。
そして、本件明細書には、同じ第2実施例について「加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決めにより、・・・」と記載されているから(【0013】欄、特許公報第7欄1~4行)、図4は「突条(9)が加熱領域に非対称的に位置して設けられている」場合の一つの態様であると認められる。
さらに、図3によれば、加熱領域がシール帯域に一致するようにヒートシールが行われることが認められるから、結局、本件明細書の図4は、突条がシール帯域の一方の端に寄って設けられたものであると見ることができ、これは「突条(9)がシール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている」場合の一つの態様と認められる。
そうすると、特許請求の範囲に記載された「突条(9)がシール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている」との意味は、それ自体では必ずしも明瞭ではないが、図4に示された態様を少なくとも包含するものであると解釈することができる。
(4)-3 審判甲第10号証記載の発明
原出願の出願前に頒布された刊行物である被告四国化工機株式会社が提出した審判甲第10号証(特開昭58-134744号公報、引用例)には、「包装積層品をヒートシールする方法と装置」の発明について記載され、本願明細書の第1~4図と同じ図面が記載されるとともに、具体的に、以下の事項が記載されている。
ア) 積層品に押し付けることができる作用面(8)を備えた細長いシールジョー(5)を具備する包装積層品をヒートシールする装置において、作用面(8)がほぼ線状の突起(9)を有することを特徴とする包装積層品をヒートシールする装置。(特許請求の範囲4)
イ) 包装積層品は・・・繊維状物質の中央支持層1を具備し、この層1はその両側を熱可塑性材料、特にポリエチレン、の比較的薄い均質な層2,3で覆われている。外側のプラスチック層3の一方と支持層1との間には更にアルミニウムはくの層4がしばしば存在し、・・・(3頁左下欄6~12行)
ウ) シールジョー5は、電気的に不導性の材料で作られ、導電性の材料、なるべくなら銅、の棒7が挿入される溝を一方の側面に具えた本体6を具備する。本体の一方の側面の中央に位置する棒7は、本体6の周囲の部分と共に、シールジョー5の作用面8を形成する。(3頁右下欄4~9行)
エ) アルミニウムはくを含む積層品の高周波溶接を可能とするために、棒7内の材料を介して、積層品を加熱する領域を高周波方式などの電源に接続することができる。(3頁右下欄下から3行~4頁左上欄1行)
オ) 二つの包装品10,12が、シールに備えて、それらの外側の熱可塑性の層3が互いに対向するように接合されている。(4頁右上欄11~14行)
カ) 包装積層品を突起9と同じ高さで一緒に押しやる高い圧力のために、溶融熱可塑性材料はシール帯域13,14全体の中の高圧の領域13から隣接部分14に走り、または流れ込む。(4頁左下欄14行~18行)
キ) 本発明による装置の第2実施例が用いられる場合には、加熱区域に対する突条9の非対称的な位置決めにより、溶融熱可塑性材料の流れの絶対的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。(5頁右上欄1~5行)
(4)-4 対比・判断
本件発明と引用例記載の発明とを対比する。
上記イ)、オ)の記載から、引用例記載の発明も「繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ泊等の導電性材料層(4)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10,11)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(3,3)間でヒートシールする装置」であることは明らかである。
また、ア)、ウ)、エ)の記載から、引用例記載の発明においても「前記熱可塑性材料層(3,3)同志を互いに接触させて該一対の積層材料(10,11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ、」、「該シールジョー(5)は、非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され、該棒(7)は、該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するとともに、」、「前記一対の積層材料(10,11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し、該一対の積層材料(10,11)の最内層である前記熱可塑性材料層(3,3)を溶融するべく高周波電源に接続するようになっており、」の構成を有することも明らかである。
そして、ア)、カ)の記載から、引用例記載の発明においても「作用面(8)により、該熱可塑性材料層(3,3)同志が前記シール帯域で圧接され、さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が設けられている」ことは明らかである。
さらに、キ)の記載及び図3を参酌すると、引用例の図4は、上記(2)において検討したとおり、「突条(9)が前記シール帯域(13,14)に非対称的に位置して設けられている」態様の一つを示したものと認められる。
そうすると、本件発明と引用例記載の発明とに相違するところは認められない。
(5) 審決のむすび
以上のとおり、本件発明は、引用例に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、被告らの主張する他の無効理由については検討するまでもなく、本件特許は、同法123条1項の規定により、無効にすべきものである。
第3原告主張の審決取消事由
原告は、平成11年10月19日、原々出願の発明(特許第1795565号)の特許請求の範囲第3項に記載された発明を削除することを目的とする訂正審判を請求し、平成11年審判第39085号事件として審理された結果、平成12年3月23日、「特許第1795565号発明の明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決があり(訂正審決)、確定した。
これにより、「原出願発明と原々出願の特許請求の範囲第3項に記載された発明とが実質的に同一であるから、適法に分割されたものとは認められず」とした、原出願についての平成11年8月12日付け審決の認定、判断はその前提を欠くことになり、この審決を前提として「本件出願日が原出願の出願日以前には遡及しない」との本件の審決の判断も誤りであり、この誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決は取り消されるべきである。
第4審決取消事由に対する被告らの主張
1 被告両名の主張
(1) 審決は、原告が主張するように、原々出願の発明と原出願の発明との間の実質的同一性の有無を判断しているものではないから、原々出願の発明の特許請求の範囲の一部が削除されても、審決の結論が誤りとなるわけではない。
(2) 特許法17条の2第4項は、請求項の削除と特許請求の範囲の減縮とを別個の概念として定めており、同法126条1項は、特許請求の範囲の減縮については触れていても、請求項の削除について触れていないので、請求項3の削除を訂正審判の手続ですることはできない。このことは、一つの請求項に係る特許権の放棄の手続については、特許権の放棄についての特許法97条を引用して複数の請求項に係る特許に関して規定する特許法185条によっても支持される。
(3) 特許を無効にした審決があった後にする請求項の削除の訂正は、権利の濫用に当たる。なお、原々出願の特許請求の範囲第3項を削除しても、第1項の方法発明が原出願発明と実質的に同一のものである以上、原出願は依然として違法な分割出願であることを免れない。
2 被告四国化工機株式会社の主張
(1) 特許法126条による訂正は、特許の一部に無効理由がある場合に、その特許自体の瑕疵を治癒するためのものであり、他の特許の瑕疵を治癒するためにされるものではない。本件において、原々出願に係る特許自体には、訂正によって治癒される無効理由は存在しなかったのであり、子出願である原出願を適法な分割出願としようとして、本件の原々出願の特許についての訂正がされたものであることは明らかである。
したがって、本件訂正は、訂正に名を借りた不適法なものである。
(2) 原出願の特許請求の範囲第1項には、「繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ箔等の導電性材料層(4)を有し、さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10,11)を互いに、その最内層である熱可塑性材料層(3,3)間でヒートシールする装置において、前記熱可塑性材料層(3,3)同士を互いに接触させて該一対の積層材料(10,11)を外側から押し付けるための平坦な作用面を有するシールジョー(5)が設けられ、該シールジョー(5)は、非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され、該棒(7)は、該一方の側面とで前記平坦な作用面(8)を構成するとともに、前記一対の積層材料(10,11)の導電材料(4)をシール帯域(13,14)以内で高周波誘導加熱し溶融するべく高周波電源に接続されるようになっており、もって該作用面(8)により前記一対の積層材料(10,11)の最内層である熱可塑性材料層(3,3)同士が前記シール帯域(13,14)およびその両側両外側帯域で互いに圧接されるようにされ、さらに前記導電性の棒(7)には、該シール帯域(13,14)以内で、高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)をシール帯域(13,14)の中央領域(13)から同シール帯域(13,14)の両外側領域(14)へ押し出し堆積させるため、前記作用面(8)と実質的に垂直な側面を有して突出する凸状(9)が設けられていることを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」と記載されており、原々出願の請求項3記載の発明における「前記作用面(8)には、該作用面から突出する断面がほぼ矩形の平らな先端面を有する突条(9)が設けられ」に対応する箇所が、上記のように、「前記作用面(8)と実質的に垂直な側面を有して突出する凸状(9)が設けられ」とされていて、「断面がほぼ矩形の平らな先端面」との限定が外されている。
このように、子出願である原出願の特許請求の範囲が原々出願の特許請求の範囲第3項記載の発明よりも実質的に拡張されたのと同様な結果を招来していることから、原々出願に係る特許と同一の優先権主張日を有する特許が新たに生じることになり、実質上特許請求の範囲が流動化することが認められてしまう結果になる。このような権利の作出は、第三者に不測の損害を生じさせるものであり、このことからしても、本件訂正は許されない。
(3) 原告は、本件訂正に係る原々出願の請求項3に係る特許権に基づき東京地方裁判所に訴えを提起している。また、本来、原々出願の子出願である原出願の請求項を削除しなければならないのに、その機会はないからそのような行為は許されない。にもかかわらず本件訂正を請求したのは、権利の濫用である。
(4) 審決の違法の有無は、原則として審決時において判断されるべきものであり、恣意的な特許権者の事後の行為に基づいて審決の判断が違法になったからとして審決を取り消すことは許されない。
第5当裁判所の判断
甲第5、第8号証及び弁論の全趣旨によれば、原告主張のとおり、原告は、平成11年10月19日、原々出願の発明(特許第1795565号)の特許請求の範囲第3項に記載された発明を削除することを目的とする訂正審判を請求し、平成11年審判第39085号事件として審理され、平成12年3月23日、「特許第1795565号発明の明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決(訂正審決)があり、確定したことが認められる。
これにより、「原出願は、原出願発明と原々出願の特許請求の範囲第3項に記載された発明とが実質的に同一であるから、適法に分割されたものとは認められず」とした原出願についての平成11年8月12日付け審決の認定、判断はその前提を欠くことになり、誤りであったといわざるを得ない。そして、この原出願についての審決の認定、判断に基づいて「本件出願日が原出願の出願日以前には遡及しない」とした本件の審決の判断も結果的に誤りとなり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決は取り消されるべきものである。
そして、訂正に瑕疵があるとして被告らが主張するところについては、被告四国化工機株式会社が平成12年5月23日にした原々出願の発明に係る特許第1795565号の無効審判請求(乙第2号証)において審理されることがあるのは格別として、訂正審決が確定している以上、本訴において、訂正審決に瑕疵があるか否かを審理することは許されず、被告らの主張はすべて理由がない。被告らは、原告がした訂正審判請求は権利の濫用に当たるとも主張するが、上記訂正審判請求は特許法の規定するところに基づいてされたものであり、被告らが主張するところにかんがみても、原告のした訂正審判請求が権利の濫用に当たるものと認めることはできない。
第6結論
以上のとおりであり、原告の請求は認容されるべきである。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)